オムスビ誕生の裏側!?
1クール目が終わって2クール目がはじまろうとしていますが、1クール目の手応えはいかがですか?
藤田
……。
松原
……。
なぜ沈黙?(笑)2クール目の制作があまりにバタバタしていて手応えを感じている余裕などない、という状況でしょうか。
藤田
そうですねえ。今、おもいっきり佳境で。振り返れと言われても……ねえ。
松原
振り返ると……まあでも、よくこれだけいろいろな種類の話をやったなとは思います。
藤田
そうっすね、いろいろやりました。
「第3期はいろいろなことをやってやろう」という意識が?
藤田
いや、そうでもないですけど。でも、「やったことないパターンって何かな?」って意識は、常にありますかね。「これは前にやったことあるから、もうちょっと違うことやろうか」とか、そういう感じで探してく感じです。
松原
そういうパターンが多いですね。「何でこんなエピソードをやったんですか?」って聞かれると、「今までやってなかったから」ってことが結構多い。
1クール目で「今までやってなかったからやったこと」というと、例えば?
藤田
「帰り道」(第5話)じゃないですか。
松原
ああ、やってなかったですね、確かに。
藤田
あれは非常に意識的に、やってなかったパターンを狙いました。アニメでは普通はガチの会話劇はやらないし。会話劇としては、「ピザ」(第11話)もかなりチャレンジでした。
松原
それで言えば、いちばんの「やってなかった要素」はオムスビですよね。
オムスビは、富永プロデューサーからの「第3期に新キャラを出してほしい」というオーダーがきっかけで生まれたそうですが、どんなところから発想していったんですか?
藤田
どうだったっけ……?
松原
まあでも、それも「やってないこと=出てきたことない奴」を探しましたよね、最初に。「こんなキャラがいい」よりも「どんなキャラ、出してないっけ?」。
藤田
そうだった。で、今まで出てなかったキャラクターのパターンを3つくらい並べて、その中から選んだ。
松原
その3つの中で、いちばん『おそ松さん』の世界観から外れてたのが、オムスビのベースになったパターン。だから監督はじめみなさん結構、「まあ、こいつだよね」って感じですんなりと選ばれた気がします。
藤田
何となく、一番どうなるのかわからん感じがしたので。そういう奴を出したほうがおもしろそうだな、と。
具体的にどんなアイデアから始まったんですか?「AI」がスタート? それともキャラクターの立ち位置から考えられたんでしょうか。
藤田
AIっていうのは、最初のメモからあったかな。立ち位置としては、今まで当たり前にやってきたことに対する“違和感”を表明する奴。正論とか客観的な意見を言ったりする。
松原
「異物感」ってよく言ってましたね。いい意味で、周囲から浮く。
観る側もいつのまにか「『おそ松さん』ワールドでは常識だと思っていたことにあらためてツッコミを入れていく。本編でもそんな登場の仕方でしたね。
藤田
そういう奴がいることで6つ子にも、他のキャラにも、今までと違うアングルからスポットが当てられて、それぞれが引き立てばいいのかなと。で、実際にそういう話数をたくさん作ってきたという感じです。
松原
対トト子であんなこと言う奴、今までいなかったですからね。我々も「やめとけ、やめとけ」って震えてます(笑)。あと、作っている時に藤田さんと「すぐに好かれようとしないでおこう」みたいなことを話した記憶がありますね。当然、すぐにみなさんに好きになってもらいたいという気持ちもあるんですけど、まあまあそこはがんばって、違和感や異物感を大事に。多少「嫌な奴らだな」と思われるくらいの、ギリギリのラインにしようと思いました。
ファンがオムスビにちょっと違和感を感じるのは当然と言えば当然で。そういう役割を担ってもらうキャラクターだったわけですね。
藤田
そうですね。
松原
ただそこにね、深い意味があるのかと言われるとちょっと……(笑)。要は「やってないキャラ」ということで生まれたから。
オムスビがはたした役割!?
そんなオムスビたちに対する6つ子たちの反応とか、オムスビの側からの6つ子たちへの対応とか。それぞれの形は、脚本を書いていくなかでどのように生まれていったのでしょうか?
松原
オムスビを中心にしようとか、AIをどう描こうとかではなくて。異物がポンと入ったことで、周りが動くという感じですね。最初、オムスビは意外と動いてなかったですよね。淡々と仕事しているというか、やることやっているんですけど、周りが動く。その時に、たとえば6つ子の反応もばらけるから、おもしろい感じになるかも? みたいなスタートでした。6つ子それぞれのオムスビに対する反応は、あまり違和感なくすんなり描けましたよ。「こいつなら、こんな反応をするだろうな」という感じで。
おそ松だけオムスビにハマらないのが、よくわからないけど、すごく納得感がありました。
藤田
ははは(笑)。そういうのが、オムスビが入ることによって際立つところですよね。
松原
ただ、反対側が難しかったですよ。オムスビ側が6つ子それぞれに対して、どう反応するのか。普通に手癖で描いちゃうと、やっぱり人間ぽくなっちゃうんで。オムスビからするとおそ松とか、どんな評価値が出るんだろう?「信じられない、データがない」みたいな? 結果、無視してました。
藤田
無視せざるを得ないでしょうね。ビッグデータとか評価値とかとかけ離れたところにいるから、おそ松は。実際のビックデータでも、そういうポンと出た極端な数値ってエラー扱いして省くらしいし。
松原
特例としてなかったことにする。
藤田
そういうのは、平均値に入れたらアカンと。
つまり、AIだからあまり人間味が出過ぎちゃいけない。
松原
そうなんですけど、大事なのはネタとかコントだから。ある程度は、許してって感じだったかな。
藤田
そこのバランスは、その時々で取捨選択はしてたと思いますよ。AIらしく機械っぽさを重視した時もあれば、ネタとして面白い反応の仕方をさせた時もあるし。最優先ではないですね、理屈は。
実際、オムスビたちを『おそ松さん』に登場させたことで、描けたことはありますか?
藤田
主に1クール目の後半かな。前半でオムスビの紹介が終わってからの、「やれよ!」(第11話)とか。トト子やイヤミみたいに、動じないタイプのキャラがものすごく動じるっていうエピソードができたのはよかったかなと。
松原
オムスビがいなかったらできなかったでしょうね、そういうエピソードは。あと「オムスビならでは」っていうのは多分、2クール目のほうが多くなります。
藤田
確かに、そのためのフリがようやく1クール目通してできたので。むしろ、2クール目以降のオムスビの描き方の構想のほうが、わりとちゃっちゃとできあがっていて。やっとそこに辿り着けたという感覚ですね。
2クール目につながるオムスビのポイントになるのが、第12話「AI」ですね。そんな方向に転がっていくのか……という展開が(笑)。
藤田
ははは(笑)
松原
はいはい。
初期の不穏な演出からすると、オムスビたちが何かやらかして6つ子たちの楽しい日常が……みたいな心配をしていましたが。結局オムスビたちが6つ子側に転んで、ニートAIになってしまいました。
松原
そうなりましたね。
藤田
でも、絵面が不穏だっただけで、オムスビたち自体は最初から嘘は言ってないですからね。ものすごく正直に、第2話の最初から「三セク(第三セクター、NPO法人)からきた」って言ってますから。本当にその通りだった。
第12話の落としどころも、当初から決めていたわけですか? いずれ6つ子たちの側に引きずり込むのだ、と。
藤田
まあ、2クール目以降のエピソードにつなぐことができればいいね、くらいで。具体的にどう落とし込んでいくかは全然考えてなかった。
松原
毎回結構そうですよ。積んでいって、積んでいって、その結果。だから僕も、1クール目の中盤くらいのシナリオを書いていて、不穏な空気は感じていましたよ。書きながら「どうなんのかな、こいつら……?」って。で、12話を書き終わって「ま、そうだよな」って(笑)。
結果的には、また他と違う個性を持ったキャラクターが生まれて、『おそ松さん』ワールドにやってきたということになりました。
藤田
ようやく入門したんじゃないですかね。
松原
そうですね。やっとスタートライン。
藤田
オムスビがこちらの世界に入ってきて、ネタに幅が広がって、さらに走れるんじゃないかと思いますよ。ニートAIという存在として、非常にくだらない動きを見せると思うので。年明け1発目のエピソード(第14話)で早速、オムスビが何を目指すのか明示されるんで、そこは注目していただければ。
空気は自然に生まれる!?
オムスビたち以外の新要素として、第3期では何となく「時間の流れ」を感じるのですが。第5話の「まあな」や「帰り道」とか、トト子とにゃーのエピソードなどからも、キャラクターたちの葛藤とか、変化とか、成長とか。そこは意識的に描いているのでしょうか?
藤田
……それも、やってなかったからやってます(笑)。
松原
(笑)。
藤田
今までやってないタイプのエピソードをやっているということですね。残念ですが、あいつらが成長するときは番組が終わるときです(笑)。
松原
僕が脚本を書いてて思うのは、成長とか変化より「出してなかった側面」を書いているイメージが強いです。
藤田
そうですね、そっちですね。「違う側面を描こう」という意識の結果というか。そのためには手段を選ばないというか。
松原
そうそう(笑)。
藤田
「こいつらの違う側面を掘り出してやるぞ」というために、たとえばオムスビも投入したわけだし。
エピソードによっては、以前のエピソードや『えいがのおそ松さん』の内容を何となく引きずっていたりすることも、多くなった気がします。その結果、「成長」というのが相応しいかどうかはともかく、6つ子たちの要素が増えたり変化したりはしていて。でも相変わらずの6つ子でもある。第3期はそこが、独特の雰囲気につながっている気がするのですが。
松原
何なんでしょうね……そこ、本当に話し合ったことがないんですけど、でも、何となく藤田さんと感覚は共有しているんですよ、「前のエピソードを引っ張るのは、このくらいでしょう」みたいな。
藤田
そうですね。
松原
「この要素は引っ張れませんよね」とか、何となく。
藤田
確かに、オレの側からはあまりストップをかけない。「おもしろいなら、まあ、これくらいはいいかな」って。それでも「これ以上引っ張ったら、止めてくれって言おうかな」ってラインの前で、松原さんのほうで止めてくれている感じ。
つまり、今までやってないネタや6つ子たちの違う側面を見せようとしながら、ネタとしておもしろければ以前のできごとを引っ張ることもある。その結果、独特な空気感が生まれてきているということでしょうか。
藤田
堆積物から何が生まれるのかって感じですよーー汚泥の湖から。
松原
ちょうどいいんじゃないですか、このくらいが。意図せず自然と、独特な空気感ができていくくらいのほうが。
藤田
ちょっと格好いいっスね。進んだところが道になる、みたいな(笑)。
松原
そうですね、それで行きましょう(笑)。