イメージをフル活用して、想像を超えるデザインに
今回は、第3期からキャラクターデザインを担当している安彦さんに、1クール目を振り返っていただければと思います。
安彦
はい、よろしくお願いします。
まず1クール目のお仕事ですが、デザイン作業のほか本編の作監にも入られているのでしょうか?
安彦
作監作業は、本当にポイントだけという感じです。『おそ松さん』は各話ごとの設定のデザインが、他の作品にくらべて毎回たくさんありまして。しかもコントの小道具や衣装なども、ただ着せればいいということではなく、“出オチ”くらいのインパクトを求められることが多いんですよ(笑)。もともと藤田監督やシリーズ構成の松原さんがイメージしていた笑いの要素をうまく取り込んで、何かおもしろいデザインにしなければいけない。それに毎週、しっかりと時間をかけているので、本編は本当にポイントだけという状態になっています。
すべての話数でインパクトのあるデザインをあげなければいけない。かなりの試練ですね。
安彦
前任の浅野(直之)さんはこんな大変な仕事をしていたのかと、実感してます(笑)。労力的な大変さはもちろん、それとはまた別の、頭を使って描く作業が大変です。でも、藤田監督とは世代が近いので、もってくるネタはだいたいわかるというのはありますね。それに、キャラクターの着せ替えなどに、ちょっと“悪意”を求められている感じがあって(笑)。「こんな姿にしちゃうんだ、ヒドいな」と想像を超えるくらいのものになるように、今まで自分が観てきたいろいろなイメージをフル活用して、描いているという感じですね。
ご自身で、今のところお仕事の手応えはいかがですか?
安彦
自分の中では、何とか徐々に描き慣れてきた感覚はあります。1クール目の作業を通して自分に取り込んだものを、これから2クール目に向けて出していけたらいいなと思っています。
オムスビはラクガキから生まれた!?
6つ子たちの描き方も、かなり慣れてきましたか?
安彦
そうですね、慣れてきたとは思います。けど、変顔は難しいです。普通の表情を描く分には6人の描き分けもかなり馴染んできたんですが、変顔に関してはキャラクターごとに、どの「記号」を使ってどこまでやっていいのかがバラバラで。6人それぞれに、特徴ある変顔があったりするじゃないですか。
何かのタイミングで描かれて以降、定番化している顔が、いくつかありますね。
安彦
それも使いつつ、また違うテイストで定着するような表情とか、自分なりに作れたらいいなとは思っていますけど……多分、本編でたくさん描かないと掴めないので、そういう意味でも難しいですね。でも、どこかで挑戦したいです。
安彦さんのデザインといえば、まずは第3期の新キャラクターであるオムスビですよね。
安彦
そうですね。オムスビに関しては最初の打ち合わせから参加していたので、今、本編で動いているのを観ると不思議な感覚があります。お話の中で活躍するとあんな印象になるんだなぁって。
デザインはどのように作っていったのでしょうか?
安彦
最初に、3種類くらいの新キャラのアイデアが用意された中から「AIがいいんじゃないか」と選ばれて。デザインは「とりあえず好きに描いてみてください」ってところからのスタートでした。でも、描き始めたら、最初はあまりにも自分の絵柄に寄ってしまって。『おそ松さん』にマッチしない雰囲気になってしまったので、ちょっと難航した時期もありました。で、何回目かの打ち合わせの時に、藤田監督が何気なく描いたラクガキを見て、「ちょっとそれ描いてみましょうか」ってことになり、その場でダブレットで描いたら、監督と僕と二人で同時に「これ、よくないっすか?」と。それで方向性が決まって、そこからはスムーズに進みました。
オムスビという名前はデザインの見た目から決められたそうで。つまり、おむすび風のデザインを意識したわけではないんですね。
安彦
そうですね。名前が決まったときは「なるほど!」って感じでした(笑)。
お気に入りはマジヘライッチー
6つ子たちは各エピソードでいろいろな格好をしますが、そのデザインもお一人で描いていらっしゃるのでしょうか?
安彦
はい、細かいちょっとした衣装替えなどは、各話の作画監督さんやメインのアニメーターさんに頼んでいるものもありますけど、そのエピソードのネタの基本になるような部分は僕がやっています。
たとえば第1話には、いろいろな6つ子が登場しましたよね。
安彦
ああ、出ましたね。ジェンダー松とグローバル松は、ちょっと悩みました(笑)。
グローバル松やジェンダー松はそれこそ“出オチ”ですね。
安彦
そのあたりが難しいところですね。「やり過ぎ」くらいを狙っていかないと多分、インパクトがないでしょうけれど、本当にやり過ぎると観る人に嫌がられることもあると思うので。とにかく描いてみて、それを藤田監督に調整してもらうような形でデザインを進めました。
それと、6つ子の声優のみなさんもキャラクターとして登場しました。
安彦
あれは、ちょっと頑張りました(笑)。似顔絵はわりと好きなので。それに、それぞれの声優さんのファンのみなさんに「似てない!」と思われると、ネタとしても成立しなくなってしまいますからね。
似せられた、という手応えはありましたか?
安彦
観ている人それぞれに、声優さんたちに対するイメージがあると思うので、本当にどこまでできたかはわからないですが、まあまあ、自分的には何とか(笑)。ただ福山潤さんだけ、アフレコでお会いしてご挨拶した時に髪型が全然違っていて、驚きました。髪型が変わっているなら教えてほしかったなぁと(笑)。
ご自身で特に印象的なデザインは?
安彦
マジヘライッチー(第3話)は結構、記憶に残ってますね(笑)。世界観からしてまったく違う作品になっていたので、いろいろネタを取り込んで描くという作業を他よりたくさんやった気がしますし、ポイントに作監も入れたので、かなり印象深いです。あとは、トト子とニャーのプロレスコスチューム(第4話ほか)ですね。昔、女子プロレスが好きで観ていた時期があったので、好きだった女子レスラーの要素などをいろいろと、こだわって入れてみました(笑)。
エピソード的にお気に入りのものはありますか?
安彦
「十四松知事」(第7話)は、めっちゃ可愛くて好きですね。十四松の知事姿のデザインも僕がしましたが、本編ではデザインよりもさらにダボっとした感じになって、マイクをポフポフするのにピッタリで(笑)。作監さんの個性かなと思うんですが、とても可愛くなっていてよかったですね。それと、第3期はしっとりしたお話も結構あるなぁと思ってます。そこは第1期、第2期とちょっと違う第3期の特徴だし、そういう話があることでキャラクターにも深みが出ている気がして、おもしろいです。
では最後に、2クール目に向けての意気込みをお願いします。
安彦
そうですねぇ……自分のツイッター(@oapiko3)で各話のOAが始まる前にラクガキみたいなものをアップしているんですが、それが今後、毎週できるか厳しいスケジュールになってきています(笑)。それでも、何とか全話でアップできるように頑張ります。『おそ松さん』は作っている側も楽しい作品だし、絵コンテを読んで内容を知っていても、本編を観てまた笑えることが多々あるので。そういう意味では僕も2クール目が楽しみですね。